Mr.Childrenのシングル『フェイク』
先日テレビ東京の『関ジャム』にて『ゲスの極み乙女』『indigo la End』『ジェニーハイ』のボーカルである川谷絵音がイントロについて紹介していたこの曲。
やはり天才の耳で聴いても天才の作る曲は凄いんだな…。
そんなこんなで僕もフェイクの魅力に再び触れるきっかけになった。
もう一度深く聴いてみて、そこで感じた一つの結論。
もう桜井和寿はラッパーに転向しろ。
フェイクの魅力
フェイクといえば『しるし』のダーリンダーリンの影響で桜井和寿がダーリンダーリンの人になっていたあの頃、全く違うアプローチで発表された楽曲。
桜井さんが訴えたい楽曲の意図している所はもう散々語られてるし、今更僕が話す事は多くないのだけれど。
Mr.Childrenでは珍しい打ち込みのロックナンバーであり、映画『どろろ』の主題歌にも起用された。
後に『HOME』をリリースする事が近いスパンで決まっていたシングルカットなので、40万枚限定という販促効果があるんだかないんだかわからん絶妙な線で世に出された何かと異端なイメージが強いこのフェイク。
なかでも『HOME』ではわりかし日常のオーガニック感強めの作品中盤において、日常と虚構を隣り合わせに対比させ際立たせる役割を果たしている。嘘の中に一人の人間や聴き手の心情を浮き彫りにさせ、楽曲やメッセージ性にリアリティを持たせている。
トップに上り詰めた果てに虚無へ落ちた桜井さんだからこそ説得力や真実味が出るリリック。
そんなフェイク。
今回楽曲にフィーチャーした結果、僕の結論はラッパー桜井和寿を誕生させてしまった。
フェイクの韻踏みと中毒性について
桜井さんの製作する楽曲で大きく特徴的なのが、韻の踏み方。みんな大好きね、これ。
このフェイクも例外ではなく、踏みまくってます。
さすが!という物から強引な物まで、一つずつ紹介していきましょう。
ちなみに著者は特別HIP HOPに造詣が深い訳ではありません。
PUNPEE、Creepy Nuts、chelmico、RIP SLYME、このあたりのライトなやつしか聴きません。
ではまずあるある!なあたりから。
桜井さんは歌詞の1番と2番のフレーズに関係性を持たせたり、対比させる構成が大好きです。
『彩り』の
ただ 目の前に並べられた
今 社会とか世界のどこかで
繋げると『ただいま』ですね。
『シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~』の
シーソーゲーム
She so cute
シーソーで同じフレーズにより韻を踏んでいます。
かあああああ韻って楽しいな!オラわくわくすっぞお!
こんな感じにフェイクでも様々なフレーズによる印象的な韻が踏まれています。
まずは一番の有名なフレーズ。
ほぺったから横隔膜まで
誰かを呪ってやるって気持ち膨らまし
始めは「二つとも膨らませる箇所なのはわかるけど、何でこんな歌詞なん…?」とか思っていました。
では、各フレーズを別の呼称で表現してみましょう。
ほっぺた→ツラミ
横隔膜→ハラミ
呪って→ウラミ
そう、言い換えたフレーズで全て韻を踏んでいるんです!
すげええええええええええこれ気付かれなかったらどうするんだよ桜井さあああああああんんんん!!!!
はい。
ちなみに
頬ではなく『ほっぺた』にしているのは音に乗せる為と、2番のホック外して~に言い方をかけているからです。
手が込んでますな…桜井さん…。
まあここまでは皆さんご存知の方が多いかと思います。そんな知ってるよ全開の顔して見ないでくださいよ。
では次!
二階建ての明日へとTAKE OFF 灰になっても
地下二階の過去からTAKE OFF ハイエナのよう
『灰になる』『ハイエナのよう』
色や燻ぶったイメージ、ハイによる韻を踏んで聴き手の耳に残る様にしています。
これも聴けばわかりますよね。
はいすいません次いきますよ。
二階建ての明日へと Take off
『(二)階建ての』と『明日へと』
これは母音の関係性を持たせて『あいあえお』で踏んでます。
地下二階の過去から Take off
こっちは『(ち)かー(に)かー(いの)かー(こ)かー(ら)』
『か』で全て踏んでます。それに合わせた歌い方をしているのでわかりやすいですね。
ここで僕は一つある事に気付きました。
タイトルである『フェイク』
桜井さんはこのタイトルで韻を踏みまくっているんです。
(正確には韻を踏みつつ、印象的な語を入れ込んでいる)
では歌詞を部分的に羅列しますね。
似せて作った
暮らしています
横隔膜まで
気持ち膨らまし
苦肉の策
TAKE OFF
嘘を信じていく
どれくらいのペースで
挙句が裏目に出ます
取っ替えのきく
ホックはずして
TAKE OFF
またしてもフェイク
飛び込んでくる音
TAKE OFF
信じていく
すべてはフェイク
これ、何を表しているかわかりますか?
今書いたフレーズには全て『く、ク』が入っているんです。
そんなの偶然だって?
いやいや文字にすると陳腐ですが、これを意識して曲を聴いてみると感覚が変わります。
いやあ苦肉の策なんて思いついちゃった時はやったった!みたいな感じだったんだろうな~。
言い回しが特徴的なフレーズが多いですよね。フェイクは。
それは全部韻を踏むために寄せているからなんです。
じゃあもう一丁。
言ってしまえば
暮らしています
呪ってやるって
苦肉の策を練って
生きてるよ
虚しさを抱えて
二階建ての明日
TAKE OFF
灰になっても
出直したりして
信じていく
どれくらいのペースで
何番手につこう
あれこれって
愛してるって
女が言ってきたって
ホック外して
途中で気付いていたって
寂しさを背負って
TAKE OFF
つまずいて
追い詰めて
この手がつかんだ
またしてもフェイク
しばらく遮断して
心を澄まして
虚しさを抱えて
二階建ての
TAKE OFF
信じたりして
抱きしめてた
明かされても
信じていく
すべては
………はい。もう先程の流れで察しの良い方はわかりますよね!
そう、こちらは『て』が入っています。
さっきの『く』だけであればまだ偶然で片づけられますが、この『て』の登場回数を考えると意識的に音が似ている語を入れていると考えるのが普通だと思います。
タイトルが『フェイク』なので、母音子音の関係性から色々なワードに派生させやすいタイトルです。
そこから韻を踏めるワードを考えるのがセオリーです。
こんなにも同語が出てくれば、嫌でも頭に残るんです。定期的に頭に刷り込まれて、リズムが自然に生まれます。
絶対に桜井さんは狙っていると思います。
そしてこの曲のBPM(曲のテンポ)は125。
一般的なEDM(エレクトロニックダンスミュージック)のBPMは127です。
サカナクションだとこのあたりが近いBPMですね。
『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
BPM126
『フェイク』の様に125だと激しい縦ノリ!という訳ではなく、若干余裕が出て踊れる感じですね。
イントロから脳に刻まれるビートと、印象的なワード。
もはやフェイクは頭が気持ちよくなって、何回も聴きたくなる様に中毒性を計算されて作られている。
1、2番で完全に気持ちよくさせておいて大サビで曲の世界観の深層に入り込ませる。
トリップ状態からクリアにして、聴き手の思考を一気に集める。そこからラストに向けてまた走っていく。
これを意識して聴くと冒頭のイントロ音作りから最後のクロージングまで、本当に遊び心に富んだ楽曲。
すげえ、すげえよ桜井さん。
この記事を書いている間永遠リピートしてたらほんとに頭ん中まわるくらいトリップできる魔法の粉、いや楽曲。
この曲で骨抜きにされた後に『その全て真実ぅううううううう』なんて歌われたら女じゃなくても心のホック外されるわ。
みなさんもぜひ、もう一度聴いてみてください。
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