【Mr.Children】僕が[(an imitation) blood orange]を聴かない(聴けない)理由 前編『二つの夢』

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こんにちは、kumaです。

 

POP再検証シリーズを読んでいただいた皆さん、ありがとうございます。

今回はPOP再検証後のアルバム

[(an imitation) blood orange]についてです。

 

実は私このアルバム、他の作品に比べると

 

あんまり聴かないんです。

 

いえ、正しくは辛くて聴けないんです。

 

Mr.Childrenのアルバムの中で、こんなにも歌い手の苦悩や辛さを感じる作品はありません。



桜井さんの心の辛さと、希望への願いが表れた [(an imitation) blood orange]

 

これには、二つの『夢』が関係してくるんです。

その夢の秘密とは?考察と共に話していきますね!

 

私が [(an imitation) blood orange]
を聴かない(聴けない)理由 前編『二つの夢』

 

[(an imitation) blood orange]
01. hypnosis
02. Marshmallow day
03. End of the day
04. 常套句
05. pieces
06. イミテーションの木
07. かぞえうた
08. インマイタウン
09. 過去と未来と交信する男
10. Happy Song 
11. 祈り ~涙の軌道

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[(an imitation) blood orange]の想い

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このアルバムは東日本大震災の影響を受けた、桜井さんの弱音辛さ

そして前に進む希望を放った作品です。


前作がMr.Childrenの歴史を総括し、新たな歌を唄っていくと力強く表現した『SENSE』

であるにもかかわらず、このアルバムは桜井さんの心情から思わず出てしまう弱気な面が目立ちます。


ここで前置きしておきますが、私はこのアルバムを批難する訳ではありません。
勿論好きな方もたくさんいるでしょうし、私も好きな曲が何曲かあります。

桜井さんの心の弱さや作品の良し悪しをつく訳でもありません。

それは、最後まで読んでくださればわかると思います。



彼の音楽に対する繊細で真摯な気持ちがあるからこそ、心からの弱音が曲に投影されている。

勿論、今までのMr.Childrenも弱さや辛さを感情として表してきました。

それを乗り越えて希望に手を伸ばす様に私たちは勇気づけられてきましたし、それぞれの願いを重ねていきました。


しかしそれには、一つの条件がありました。

彼らが見せてきた弱さや希望。

それは必ず作品の中で消化され、強い力へと姿を変えていっていました。

どんなに辛い状況にあっても闇の中からは光を掴み、絶望に打ちひしがれても希望へと歩き始める。


私たちは希望の虚像である彼らを信頼しきっていて『物語の最後では必ず光へ繋がる』という、先入観のもとに楽曲に触れていたからです。

『最後にはやっぱりどうにかしてくれるMr.Children』という、ある意味パッケージ化された物としての安心感があったと思います。


けれどこのアルバムに関しては、少しそれとは異なります。

確かに希望や光へ向かって行きます。歌い手もそれを必死で歌っています。

けれど歌い手の心情を読み取ろうとすればする程に、その辛さを感じてしまいます。

震災で1回作り手として、自分がやられているところがあったから。みんな言うことだけど、本当に音楽になんの意味があるんだろうって思ったし…
MUSICA 2015年1月号 桜井和寿インタビューより


彼がここ10年対峙してきたのは自我であり、ある意味コントロールできる物でした。

しかし人々の命の意味や価値観を180度変えた震災。

それは桜井さんの考えや音楽家としての在り方でさえも、根底から変えてしまったんです。

聴き手と向き合いMr.Childrenを振り返った『SENSE』
その自信と感謝を聴き手に還元した『POPSAURUS』

彼が積み上げてきた物は、この大きな出来事で揺るぎ始めていました。

浄化されるための音楽

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震災が起こってから日本では様々な考え方や行動が生まれました。

その一つが自粛という行為。

日本人特有の物であると思いますが『皆が我慢しているのだから我慢する』

それが理性的で調和を重んじる国民性といえば聞こえは良いです。
しかし目立つことや単純に喜びを感じる事は、多くの視線や空気の中で淘汰されてきました。

サブカルチャーは人々の心を豊かにしますが、生きていく上では絶対に必要な物ではありません。

勿論、音楽もその最たるものでした。

自分のプライヴェートのことならネタにして曲書いてもいいけど、震災のことはネタにしちゃいけないから。それを背景に歌って、感動を生みたいっていう気持ちもいやらしくて嫌だったし。そういう他の事柄とは全然違うものでした。自分の中で体験したことがない状態になったというか…
MUSICA 2015年1月号 桜井和寿インタビューより

もともと桜井さんは『音楽で人を変えるなんてできないが、心の中に種を植えることはできる』と考えていました。

しかし今回はそんな事すら口に出せないくらい、皆が辛い気持ちを抱えていました。

彼らがこれまで歌ってきた愛、希望、光。
それらの物が意味を無くし、届きもしない絵空事と思えてしまう。

彼は、歌う意味を見失いました。

彼にとって歌えなくなる事。
それはつまり、これまで自信を作り上げてきた自己の承認感を全て奪われるという事でした。


だからこのアルバムには『歌う事ができない歯がゆさ』『希望や夢に届かない辛さ』『自分の自信の無さ』が見えてしまうんです。

………かぞえうたを書くことで、自分が浄化されようとしてたんだと思います。
けど、それよりもその時の自分の心理を正直に考えたら、多分許されたかったんだと思う。自分が何もできないことから許されたかったんだと思うんですけどね。

MUSICA 2015年1月号 桜井和寿インタビューより

桜井さんは震災後の自分ができる事の、第一歩として『かぞえうた』を人々へ届けました。

それは彼にとっての精一杯の音楽に対する誠意と、聴き手への愛情。
勿論私たちはそれを受け取り、一人ひとりの中で小さな希望へと変えていきました。


彼らは実際に被災地へ足を運び、被災地の現状を自らの目で見ました。

その時に町を見て、まだ大変だったけど、それでも「人間って強いんだな」って思って。
あともう一つは、震災に遭いながらでも、本当につらい思いをしながら孤独の中にいる人が、ひょっとしたらそんな人達の側に僕らの音楽が寄り添っていたかもしれないっていう…そういうプラスなイメージを持ちながら、日が経つにつれて、そういうパニックから解放されていってはいましたけどね。

MUSICA 2015年1月号 桜井和寿インタビューより

彼は少しづつですが、確かに歩き始めました。

 

二つの夢の中で

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アルバムを考察する上で、ツアーセットリスト中の楽曲が一つの重要なポイントになってきます。
そこも合わせて[(an imitation) blood orange]を紐解いていきます。


このアルバムには一つの特徴があります。

歌詞の中に『希望』『夢』といった、プラスのイメージが意図的に取り入れられています。


今までのMr.Childrenは

・マイナスからプラスへ向かう力
・ポジティブを見つける為に敢えてネガティブを入れる

こういった方法で私たちに希望を提示してきました。

しかしこのアルバムは始めから、プラスのイメージだけを歌詞に織り交ぜています。
今、人々にネガやマイナスは必要ないからですね。


そしてそのワードが散りばめられた歌詞の中に『夢』という言葉が多く使われています
11曲中、実に5曲です。

この『夢』が大きなポイントになり、二つの意味合いで使われています。


一つは、人々が思い描く『夢』

もう一つは、無意識に頭に浮かぶ『夢』です。寝ている間に見る方ですね。


このアルバムで主人公が思い描く『夢』とは抽象的ですが

・災難や辛さ(震災)から、気持ちを救いたいという歌い手の願い
・自身の思い描く道への到達(POP再検証で成しえた自己承認と聴き手との信頼関係)

という物がベースになっていると考えます。


アルバムの1曲目を飾る『hypnosis』
この曲は全体を通して主人公の不安な気持ちと、夢を叶えたいという願いで溢れています。

今日も見果てぬ夢が 僕をまた弄んで
暗いトンネルの向こうに光をチラつかす
叶うならこのまま 夢のまんま
もう現実から見捨てられても 構わないさ

夢に届かず、もがき苦しんでいる様が見て取れます。
『暗いトンネル』は目指すべき道への比喩です。


歌詞中にトンネルが出てくる『天頂バス』はPOP再検証への決意を表した曲。
このツアー中にも演奏されており、ライブスクリーンの映像にはトンネルが登場します。

そのトンネルの道は後の『常套句』の映像にも出てきます。

そして主人公は、夢が叶わないならもう現実に戻れなくても良い。こんな風にこぼしています。

これは一体どういう事でしょうか?



もう現実から見捨てられても構わないと言っているという事は、彼は今夢の中(無意識)の様な所にいるという事。

そして願っている夢(願い)が叶うなら現実に戻らなくて良い。

この場合の現実とは、POP再検証で積み上げてきた精神的な自己承認がされた世界感です。

つまり

私は歌う事しかできない人間で、現実には何もできない。(被災した世の中に直接的な施し)
だけど歌う事(今は無力で虚像的な力しか無い)で、もし皆が救われるなら喜んでそれをする。

皆のまがい物(大衆の願いなので形の無い虚構=夢の中)として生きるよ。

という事です。

作られた偽物でも『今は』皆を癒せるなら、もう昔に戻れなくても良いよ。


これを聞いているだけで、考えている桜井さんの姿を想像するだけで、辛いです。


 

自分に潜んでいた狂気が首をもたげて
牙を剥き出し 遠吠えをあげる もう手懐けられはしないだろう

悲壮な空気間が溢れる世の中。自分が歌う意味は無く、本当に歌いたいものが吐き出せない。
そんな気持ちを抑えられない。

このアルバムが終わった後に初めに作られた曲は、あの『WALTZ』衝動的な曲です。

国道に弓張り月
消えそうな細く尊い煌めき

以前この国道から見ようとしていたのは希望の虹(蘇生)
今は暗い夜に向かって、闇夜に欠けようとしている月。


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このアルバムの歌詞カードはページをめくるごとに、オレンジ→青→オレンジのグラデーションでデザインされています。

オレンジはこのアルバムにとって希望の色であり、青はこの曲でも表される群青色の夕闇。
そしてオレンジと群青色は色の相関図では、反対側に位置する色。

いつもMr.Childrenが表現する二項対立と、闇にもいつか光は射すという事を表現しています。

オブラートに包んで 何度も飲み込んだ悔しさが
今歯軋りをしながら僕を突き動かす
新しい何かに出会えるかな
今終わらぬ夢のその先に 僕は手を伸ばす

自分が何もできない悔しさも、今は表現すらできない。
けどいつか新しい自分を見つけるまで、心の内に力を秘めて手を伸ばす。


タイトルの『hypnosis』は催眠や、暗示による意識状態が低下した状態を表す言葉です。

主人公は願う物にうなされています。ある意味、夢の中のイメージにいる様な状態になっています。



そこから続く『Marshmallow day』

これは耳にしてすぐにわかる様な、心躍るPOPソングですね。


しかし歌詞をよく見てみると

『自分を見失うよ』『消えてなくなったりしないでよ』『狂おしく』『手に付かない』『君のいない世界を想像して怯えるよ』『睡眠不足が続く日でも』『このまま死んでしまえるなら』


ワードだけとってみると不安な言葉のオンパレードです。

Marshmallowには『臆病者』『弱虫』という意味があります。

辛い事から逃避(夢)している心理状況が表れています。

 

もっと他にすべきことがあると
分かってても手に付かない
高台の鐘が鳴り響くように
You’re beautiful こだましてる

手に付かないのは現実をどうにもできないから。
逃避して夢の中にいる為です。

高台の鐘の様に美しいあなた。望むものが高いという事の暗示です。

何ひとつの不自由もなく 最近過ごしてたのに
今や君のいない世界を 想像して怯えるよ

かれはここ10年間のPOP再検証で、自己承認という確固たる自信を築き上げました。

しかし彼の世界は一変し、あなた(聴き手)が離れていく世界に怯えています。


表層的に軽快なPOPソングとして見せています。
しかしその中には主人公が置かれている、不安定な状況が垣間見えます。


ある意味『辛さから逃避した夢の中』にいるのではないでしょうか?


長年聴いているのでわかりますが、桜井さんはピュアでひねくれ者です。
対比させたり、必ず比喩や表現で隠していたりします。

かつて『シフクノオト』に収録している『掌/くるみ』について、必ずアルバムの曲順には意味を持たせてると言及しています。

だとしたら、この『hypnosis』から 『Marshmallow day』も必ず意味があると考えられます。
希望を伝えたいのであれば、こんな落差のある曲順にしませんし。



そんな逃避の後悔を、次の『End of the day』ではこの様に歌っています。

いつか いつの日にか そう言ってやり過ごして 気が付きゃロスタイム
で、慌てるから乞食は貰い損ねる
甘えて過ごした 子供に頃と根底は同じ
今日も一からの いやマイナスからのスタートを切る

逃げてきた自分を顧みる。欲しがっているだけの存在は何も得る事ができない。
これでは若い頃(エゴと自我の時代)と何も変わっていない。
初めからではなく、もう多くを失っている。

End of the day どのくらいの価値 があるんだろう?
End of the day 今の自分に

このアルバムで感じてしまった、自分自身への疑問と不安を問いかける。



そんなつまづきを経て、次の『常套句』では真っすぐな気持ちを歌い上げます。

これは引用するまでもないですね。他者(聴き手)への愛を歌っています。


そしてライブではこの『常套句』が夢の最中にあるという表現が出てきます。


ここでのポイントはPVとライブ映像にあります。

 

PVには顔が描かれた球体が描かれています。球体は愛する人への気持ちを伝えようとする。

球体は空に思いを打ち上げ、愛する人へ想いを重ねようとします。
しかし届くことなく雪の欠片となり街に降り注ぎます。


ここで一つのポイントが。
球体が乗り物(バス)に乗ってサーカス小屋へ行き、ずっと曲芸の様な行動をしているのです。

バスはこのブログで何度も登場する、桜井さんの思いを投影した物の比喩ですね。
天頂バスでは『目指すべき場所』へ連れて行ってくれます。


対してサーカスは曲芸を行う見世物です。

観劇する者(聴き手)から期待を求められ、それに対し楽しませるように演じる(虚像として)

消費されている者としての、イメージでしょうか。


つまりバス(思いのメタファー)に乗り、サーカス小屋で曲芸を演じる(皆に求められる虚像を演じる)
しかし想いを打ち上げても、伝わらない。


これは歌い手の今の辛い心境を表している描写かと思われます。




そしてツアーでも演奏される『Pink~奇妙な夢』
この曲の中ではこんな描写がされています。

隣で眠る裸体の女が 不機嫌そうに寝返りを打つ
それが何かは分からないけど 多分僕に不満を抱いてる

裸体の女(こうあってほしいという欲望の比喩)はこちらを避けそっぽを向きます。
不満を抱いているのはエゴを歌っていた自分に対してのイメージが夢で投影されているから。

恥じらいがあった昨日より さらけ出した今日の方がより
多少黄ばんで見えたりしてるけど 愛しさは増えるよ
何したって構わないから 君の好きなようにしとくれよ
明日も僕の夢を壊してよ

互いに自分を隠すより、正直な思いを伝えた方が大切な物が見える。
綺麗なピンクではなくても、それは確かに輝いていている。
だからあなたの気持ちを見せてほしい、そしてこの夢から連れ出してほしい。


『Pink~奇妙な夢』は桜井さんが聴き手への願望や、正直な気持ちに気付き始めた歌です。

他者から認められたいと感じている事が、無意識に夢へと投影されています。


ツアー中の『Pink~奇妙な夢』から『常套句』の間にスクリーンに映る映像。
そこには『トンネルを通るバス』が映ります。


つまりまとめると

他者への愛情と承認を欲する(悪夢 Pink)
そこに続く険しい道とトンネル(自己承認と他者との信頼関係を築いたPOP再検証の旅 天頂バス)(苦悩の夢 hypnosis)
そんな愛されたいという直接的な願いが無意識に出る夢(願いの夢 常套句)

という流れになっています。


このアルバムの桜井さんは自信を失っています。夢に逃避しています。

だから実際には違いますが、潜在的に『聴き手から見放された』というイメージが表されれいます。

ツアーで『花言葉』『やわらかい風』『抱きしめたい』『Surrender』を続けて歌います。

失恋や、大切な人が遠くにいる描写の楽曲を多く披露するのはその為です。


抱きしめたいは見放された失恋ソングではないって?
二人だけの『夢』を胸に歩いていく歌ですね。すべての事を二人でずっと受け止めていく。

そしてツアーでは『Pink』『常套句』と続くので、ここまでは夢を見ている状態。
その後の『CENTER OF UNIVERSE』で覚醒する。そんな流れではないかと個人的に思っています。



彼の夢の続きは、どの様な終わりを見せるのでしょうか?

次回、後編の『希望のまがい物』でお会いしましょう!

【Mr.Children】僕が[(an imitation) blood orange]を聴かない(聴けない)理由 後編『希望のまがい物』
『2つの夢』を超えて桜井さんが見た光とは。自身を犠牲にしても、私たちに優しい希望を提示してくれる1枚を考察。
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これまでMr.Childrenの作品について触れ、全てのアルバムについてに感じた事や考察記事を執筆。 サイトの順番的に見辛い部分もあった為、一覧として触れられるようにまとめてみた。 キュレーションサイト「グノシー」や「スマートニ...

Mr.Children[(an imitation) blood orange]歌い手の夢と悪夢とは? 現実から逃避する、歌い手の苦悩が詰まった作品を考察。

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