Mr.Children『重力と呼吸 前編』最大の挑戦作で聴き手のための歌をやめた理由とは?

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こんにちは、kumaです。

 

今回はMr.Childrenの最新アルバム

『重力と呼吸』

について考察していきます。

 

前作の『REFLECTION』から、彼らはどう変わっていったのでしょうか。

今のMr.Childrenが詰め込まれた意欲作。

 

その中身に迫っていきましょう!

 

重力と呼吸』
01.Your Song
02.海にて、心は裸になりたがる
03.SINGLES
04.here comes my love
05.箱庭
06.addiction
07.day by day(愛犬クルの物語)
08.秋がくれた切符
09.himawari
10.皮膚呼吸


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生きる本能

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まずこのアルバムに対して考えるきっかけになったのは、雑誌インタビューの内容からでした。

これまではいろんな人の人生の物語のBGMになる曲というか、いろんな人が聴いたときに、それぞれがその歌の物語を自分に投影しやすいものっていうのを心がけて歌は作ってきたんですけど、今回に関してはあんまりそこに重きを置いてなくて聴く人の物語じゃなくて、音を聴いたらバンドのメンバーが見えるっていうものを凄く意識したんですよね。
「いつまで叫び続けられるんだろう」――桜井和寿、26年目の覚悟 yahooニュース記事より引用

彼は今まで様々な人の人生に寄り添うように、言葉を届けてきました。

言葉を空に散りばめる。

その星を見る誰しもが、星座をイメージできる様に。

人々はその言葉をそれぞれの人生に重ね、自分だけのMr.Childrenという物として消化してきました。

その役割を一手に担ってきた、Mr.Childrenという虚像。


しかし今回そのイメージは作品にありません。これはどういった心境の変化なのでしょうか。

求められているものにただ応えるだけのバンドはつまらないし、自分達にあと何ができるのかっていうことも考えるし。それこそ若かった頃のように、未来が延々と広がっているわけじゃないから…。だから、今できる、一番の直球を投げたいと思ったんですよね。それがこのアルバムだと思います。
「いつまで叫び続けられるんだろう」――桜井和寿、26年目の覚悟 yahooニュース記事より引用

彼が感じ始めた危機感。
周りのミュージシャンの環境や体調の変化によるリタイア。

あとどれだけ音楽をやり続けることができるだろうという、ミュージシャンとしての純粋な気持ちも大きな要因の一つでした。

若いアーティストが活躍をして、自分もその良い影響を受けることができている。
その反面、自分にしかない魅力にも気づく事ができたと語っています。

残された時間で、どれだけ自分らしい人生を歩むことができるのか。
その能動的なベクトルが、今の彼らを動かしています。


25周年という節目を終えた彼ら。
同じことを続けていく事を選ばず、新しい自分たちを見せる意欲的な気持ち。

満たされた環境に決して満足しない。

自らを振り返った『SENSE』
夢や震災と対峙した『[(an imitation) blood orange]』
独立をし、ありったけの全てを注ぎ込んだ『REFLECTION』


そんな『REFLECTION』は彼らの集大成とも言える、全方位に向けた作品でした。


反対にこの『重力と呼吸』は自分の生きる欲求に素直に従った本能の作品。

今の自分たちを全力投球の直球で表した、潔い作品となっています。


 

変わり始めた心

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音楽への心境の変化は、世の中の流れや聴き手に対しても同様でした。


彼は音楽に対して、常に誠実に向き合っています。
ただⅬからRへ通り過ぎる記号として、思いが通わない形で消費される事を嫌いました。

音楽が相手に向けられた瞬間に起こる、自己と他者間における化学反応の連鎖。

これこそが自分という存在を認識する行為であり、他者へ音楽を届ける意味として歌を唄ってきました。


しかし時代は変わりました。

誰もが場所を選ばず、ポータブル機器で音楽を聴く。
気に入ればダウンロードし、飽きれば消す。
世の中は情報で飽和し、表層的な答えはすぐに手に入る。
考える事をしなくなり、物事や思いは右から左に通り過ぎていく。

これは便利になった世の中の良い面でもあり、何か大切な物が欠け落ちた様な憂うべき事でもある。

今はたいがいのものがネットを通じて音と視覚で入ってくる。自分自身が、言葉だけを見て何かを想像したりイメージしたりする力が落ちてきてるなって感じています。だから、リスナーもそうなんだろうと思うんですね。
「いつまで叫び続けられるんだろう」――桜井和寿、26年目の覚悟 yahooニュース記事より引用

その環境はもちろん日常の生活者である彼にとっても、同じことでした。
彼もその影響を、大きく感じていたからかもしれません。

だからこそ在りのままを受けいれて、それに対し自分が何をできるかを考えている。


そしてその影響は、彼の音楽において重要な要素である『言葉』に対しても同様でした。

 

リスナーの想像力をあまり信用していないっていうか、もうきっとここまでのことを深く掘り下げて書いても理解しないだろうな、ただ通り過ぎていかれるだろうなっていうのがあるんです。だから、意図的に淡白に言葉を書いているところはあります。
「いつまで叫び続けられるんだろう」――桜井和寿、26年目の覚悟 yahooニュース記事より引用

Mr.Childrenの楽曲といえば、桜井和寿が描く歌詞の世界観。
私小説的でもあり、時代を映す鏡ともなる。
物事の根幹を歌い、常に聴き手の感情を揺さぶる言葉たち。

彼が書く歌詞はこれまで多くの人の琴線に触れ、Mr.Childrenの音楽を語るうえで重要な要素でした。


その彼が語る心境の変化。

インタビューから感じる雰囲気。
どこか振り切れたような、諦めにもとれる言葉。


これは一見すると『聴き手の想像力の欠如のせいで、彼の創作意欲を無くしてしまった』という見方になりがちです。


私も少し残念な気持ちはありました。
しかしその反面、悪い事だけでは無いと感じました。


今の世の中に何が求められているかを感じ取る感覚。
これはアーティストの思考として、至極当然な事なのではないでしょうか?


勿論、彼が紡いできた言葉の数々は素晴らしい物に変わりはありません。
私もその歌詞が大好きです。

しかしこれまで『皆のMr.Children』を背負い、希望の虚像として音楽を届けてきた彼ら。

もう同じことを求め続けるのは酷であるし、彼らも常に変わっていく存在なんです。


求められる事より、今自分たちが鳴らしたい音を出す。
自分の生きる欲求に、素直になる。

『Q』では自分たちの音楽趣向を強く出した。
しかしダーツでコード進行を変えたかつての様な、実験的なエゴではありません。


そこには、強く強靭な音楽に対する意志がある。


そして大切なのは彼らが音楽を通し、私たちに希望を与え続けてくれる事。

音楽は手軽なツールに変化した。


だからこそ彼らはその音楽で、リアルな体験をできる『ライブ』を重要にしているんです。


それは何より本物の音だから。


 

暗がりで咲くひまわり

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彼が他者の音像を意識した音楽活動に重きを置かなくなった事により、作品はより内省的な物になっています。

云わば歌い手の弱さ、本音、夢。多くの人間らしい心情が注ぎ込まれています。

そこには音楽に対する希望と、憂いの気持ちが見え隠れしています。


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彼らの25周年のメモリアルイヤーに発表されたシングル『himawari』


この曲には自己表現の変化に揺れ動く心情。
そして聴き手へ素直に表現できない感情が表れていると私は感じます。


『紡ぐ言葉によって聴き手とコミュニケーションが取れていた、過去の時間や関係性を憂う主人公』

つまり歌詞の内容を考える事なく受け入れる聴き手に対し、悲しみ願いを持っているという事。

時代や世の中を受け入れてはいるけれど、その中には荒ぶる感情も持ち合わせている。

そんな心情を、今のMr.Childrenの衝動的で重みのあるサウンドを表していると私は考えています。


桜井さんは2項対立が大好きな作家です。
常に相反する物を対比させ、その輝きや悲しみを表してきました。

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ここでは明るい象徴である筈の『ひまわり』が物悲しく咲いている姿を描いています。

ひまわりの花言葉は幾つかあります。
主には『憧れ』『あなただけを見つめる』です。


この曲は大切な人を亡くす映画のタイアップがついているので、歌詞もそれに合わせた様に見えます。
しかし実際は歌詞ができた後に、映画の話がきています。


初めに出てきた言葉は、冒頭の『優しさの死に化粧で~』

聴き手の心を頭からハッとさせる様な、歌詞を追っていきましょう。

いつも通り
僕=歌い手であり、君=聴き手の構図です。

優しさの死に化粧で 笑ってるように見せてる
君の覚悟が分かりすぎるから 僕はそっと手を振るだけ

死に化粧は亡くなられた方にする化粧です。
つまり聴き手の、ある意味での死を意味しています。

今も変わらず僕に対して優しく振舞ってくれる。
その中身に深い感情は無く、笑っているだけ(歌詞を読み取っていない)

君はそれ(言葉を考えない)が当たり前だと思っているから、僕もそれを止めやしない。

「ありがとう」も「さよなら」も僕らにはもういらない
「全部嘘だよ」そう言って笑う君を まだ期待してるから

当初の歌詞は「ありがとう」「ごめんね」でした。


「ありがとう」「ごめんね」「さよなら」

この三つの言葉は、Mr.Childrenの歌詞を表すシンプルかつ恒久的なワードとして様々な曲で描かれてきました。

『Sign』ではそんな言葉を積み木の様に重ねてきた、2人(歌い手と聴き手)の時間や関係性を大切に思う心情が表現されています。


つまりそんな象徴的な愛すべき言葉は必要ない、と言っているのです。
何故ならそんな言葉(歌詞)はなくても、世の中は当たり前の様に機能していくから。

だけど心のどこかでは、そんな事を嘘と言ってほしい気持ちが残っている。

 

いつも
透き通るほど真っすぐに
明日へ漕ぎだす君がいる
眩しくて 綺麗で 苦しくなる
暗がりで咲いてるひまわり
嵐が去ったあとの陽だまり
そんな君に僕は恋してた

そんな僕の気持ちを知らず、君は進んでいく。

当然です。それ(歌詞や物事を考えない、感じない)に違和感を感じる事が無いから。
それが君にとって当たり前だから。


ここで漕ぎ出すという言葉を使っています。
これは恐らく、描いているイメージが大海原だからです。

別の楽曲の『here comes my love』は大海原で目指すべき『君』を追う歌です。

だからかつて強かった鯨の様な自分(SENSEで自己承認を完結し、自信に溢れた)を思い返している。

そんな鯨に飲み込まれるくらい弱気になり、自分以外の何かが変えてくれると思っている自分。

このアルバムに多く出てくる言葉。
『空を見上げる』『風に吹かれる』には、そんな自然の成り行きや力を頼りにしたイメージが表れていますね。


同じくこの節に出てくるピノキオは、人間になりたいと願う人形の話です。

つまり理想の自分になりたいという希望。


そんな辛い思いを持つからこそ、純粋な君(聴き手)への思いが込みあげる。
余計に苦しいなる。でもどうする事もできない。


このアルバムでは憂いた心情を見せつつも『あなたがいて今の自分がいる』事を全面的に肯定しています。
愛する人に対しての、感謝と望みが表れています。

『IT’S A WONDERFUL WORLD』以降のPOP再検証で再確認した、自分の生きる意味。
これだけは、彼にとって絶対に揺るがない気持ちなんです。



彼は物事に二面性があるとずっと歌ってきました。
対極を知ることで、その意味や大切さがより際立つ。

それを希望や絶望、光や暗闇に喩えてきました。

だからこそ純粋な一面だけでなく、対の部分を感じ取って欲しいと願うんです。


目の前の物事をただ受け取り進む生き方よりも、苦しみもがいた末に光に照らされるからこその美しさ。

これはMr.Childrenが、聴き手に対し歌ってきた事です。


『ただ真夏に咲く向日葵ではなく、暗がりに咲くから意味がある』

歌詞においても生き方においても、悩み考えた末に答えを出す事。
これこそに、何らかの意味があるという事だと思います。

そんな様々な表情を見せる君に、恋をしていた。

想い出の角砂糖を
涙が溶かしちゃわぬように
僕の命と共に尽きるように
ちょっとずつ舐めて生きるから

今まで互いに作ってきた思い出の欠片(曲を通しての互いの思い)

聴き手に自分が泣いている事を見せたくはない。
だから涙を流して溶かすのではなく、口の中で見えない様に舐めて、自分で消化する。

衝動のはけ口は見つからず、涙を流す事もできません。誰も悪くないのだから。 

だけど
何故だろう 怖い物見たさで
愛に彷徨う僕もいる
君のいない世界って
どんな色をしてたろう?
違う誰かの肌触り
格好つけたり はにかんだり
そんな僕が果たしているんだろうか?

もしかして、大切なのはそんな事ではないのだろうか?(物事や思いを深く考える気持ち)

だからそんな君のいない世界も想像してみる。

桜井さんは今回の作品について、聴き手が想像を重ねられる様な物にしていないと言っていますね。

つまり恐いもの見たさと言って、今までとは全く違う世界に飛び込んだ心情が表れています。

今まで信じていた大切な物を、急に手放して自分は満たされるのか?

今更違う人(死んだとする聴き手)に歌を届けて、満足できるのか?と自分に問いかける。


1番であなたの大切さを歌い、2番で自分の心の弱さに逃げ込んでいます。

これにより、悩み苦しむ主人公のシルエットが音像と重なり浮かび上がってきます。


『重力と呼吸』全体に表現される、生々しさ、人間臭さがみるみるその姿を現します。



そしてここで、全ての感情が溢れ出す次の歌詞に繋がります。

諦めること 妥協すること 誰かにあわせて生きること
考えてる風でいて 実はそんなに深く考えていやしないこと
思いを飲み込む美学と 自分を言いくるめて
実際は面倒くさいことから逃げるようにして
邪(よこしま)にただ生きている

主人公はこの問題に関して、自分で状況を変える力を持ち合わせていません。
だから良い風に捉え美化し、結局はどうにもできない気持ちを抱えている。

自分にとって理想の「君」を諦め妥協する。
そんな「君」は、深く考える事(言葉について)をしない。
 
だから自身を言いくるめて、逃げる様にして生きている。
 
僕はこの大サビの部分に、桜井さんが聴き手に込めた願いと叫びが集約されている様に感じています。

そのもどかしさや刹那的な衝動が直後のギターのフレーズに表れます。

レコーディング中から、桜井さんがメンバーに必死に訴えかけてきた荒ぶる気持ちを表現する音。


弱さや切なさを表す繊細さではない。
このどうにもできない感情や、やり場のない衝動を表現する事が必要だったんです。


この楽曲にはサビに入る瞬間に歌われる
『いつも』『だけど』『だから』という歌詞。

曲を聴いている人に、主人公が苦悩する世界へ入り込ませるのに充分な言葉。

このたった3文字の中に、主人公の気持ちが投影されています。


1番で君への思いを強調する『いつも』を使い
2番でそんな辛い状況から『だけど』で逃避する

揺れる思いに耐えられず、不甲斐なさをこぼす大サビで、自分の弱さを全て吐き出す。

そして彼の問題は何も解決しないまま、君への憧れに帰結するフレーズに戻ってきます。

だから
透き通るほど真っ直ぐに
明日へ漕ぎだす君をみて
眩しくて 綺麗で 苦しくなる
暗がりで咲いてるひまわり
嵐が去ったあとの陽だまり

1番と同じフレーズを繰り返す3番で出てくる『だから』

一度全てを吐き出してしまったが故に、これが物凄い意味と破壊力を持ってくる構成になっています。

1番では『明日へ漕ぎだす君がいる』と俯瞰的な綴り方だったのに対し
最後のサビでは『明日へ漕ぎだす君をみて』と、限りなく主人公の目線に近い表現に変わっています。


ここにきて曲を聴いている人に対し完全に感情移入をさせ、最後の最後で救いのない物語へと引きずり込みます。


そんな主人公が最後に願う言葉。

そんな君に僕は恋してた
そんな君を僕は ずっと


www.youtube.com



 

君がいた夏

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25年前のデビュー曲である『君がいた夏』は、夏の象徴であるひまわりが咲く季節の物語でした。
そこにはまだ甘酸っぱく切ない、夏の風景を想起させるような余白やポップ性を持った若々しさが存在していました。

しかしこの『himawari』はガラスの様な危うい気持ちの描写で、主人公の心情が描かれています。
主人公が聴き手に唄っている事は、まさにこれまでMr.Childrenが歌ってきた事そのもの。

『対比の中に美しさや希望を見出す』というテーマを、25周年目の記念作品に組み込む。
そんな、桜井さんの作家性と作品への愛が表れた『himawari』。

同時に吐露された桜井さんの聴き手に対する思い。
それは決して表層的に語られる事は無く、結果的にメタファーという隠されたメッセージとして聴き手に伝えられる。


25周年の感謝を込めたツアー『Thanksgiving 25』
『himawari』の演奏前に、彼はこんな事を聴き手に対し言っています。

「この曲でみんなをコテンパンにしたいと思います」

歌詞が通り過ぎられるのであれば、もうそこは皆には求めない。

それならば、音像がダイレクトに伝わるヘビーなサウンドで鳴らし、踊り、叫ぶ。
それだけでMr.Childrenという存在が一発で伝わる様な曲で皆を打ちのめしたい。



そんな少しの悲しみと愛が込められた、聴き手へのメッセージだったのではないでしょうか?


時代や聴き手と共に常に変化していく彼らが、今後も楽しみになる。
そんな象徴である『himawari』と考察してみました。

次回はその他の『重力と呼吸』楽曲について踏み込んでいきます!

 

Mr.Children『重力と呼吸 後編』聴き手のための歌をやめ、僕の歌と君の歌を唄う理由
【重力と呼吸】彼が唄うのは聴き手への歌ではなく『僕の歌』と『君の歌』 作品ではなく思いを聴くアルバムを徹底考察!
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