Mr.Children『SENSE 第一部 』深海からの脱出

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こんにちは、kumaです。

 

POP再検証の長い旅路を続けてきた彼ら。
この『SENSE』というアルバムは、自分たちを振り返るという作業がひとつのポイントになっています。

 

つまり、自らを見つめ直してきたPOP再検証をここで終えるという事です。

 

『Mr.ChildrenのPOPミュージックへの挑戦
深海からの脱出 SENSE編 第一部』

 

SENSEの考察とPOP再検証の完結というボリュームの為、今回は3部作になります!

見てくださったあなたが、改めてSENSEを聴きたくなるような内容にしていきたいと思っています!

 

『SENSE』
01. I
02. 擬態
03. HOWL
04. I’m talking about Lovin’
05. 365日
06. ロックンロールは生きている
07. ロザリータ
08. 蒼
09. fanfare
10. ハル
11. Prelude
12. Forever

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音楽を感じる

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消費を肯定し、聴き手に全てを投げた『SUPERMARKET FANTASY』

そんな音楽の楽しみ方を提示した中で、彼らは一つの実験を試みます。
バンド内のグルーヴを意識した音楽活動。それが『Split The Difference』です。

音楽の楽しみ方の一つとして、Mr.Childrenとしての楽曲をより肉体的に感じる事を求めました。
既存の楽曲をリアレンジし、今だから伝えられる解釈でより近しい聴き手に投げかける。


今回は『SUPERMARKET FANTASY』の様に意識して宣伝をしたりコンセプトを提示するのではなく、内から自然に湧き出る感情として音楽を楽しむ。
 

自分たちが普段スタジオで出している空気感。
そんな肩肘張らない姿を、聴き手に届けたいという自然な気持ちからでした。


そんな中、新しいアルバムの新曲も次々と生み出されていきます。

桜井さんは制作途中のインタビューで、自分が作った様な物ではない感じがする。無意識の創作に近いものがあるという事を話しています。


その意思を反映させてか、『SUPERMARKET FANTASY』とは全く真逆の『宣伝を極力しないプロモーション活動』を彼らは行っていきます。


テレビ出演や雑誌の宣伝は一切無し
発売前の楽曲視聴やメディア宣伝無し
収録内容にシングル曲無し
CMでは水中イメージと思しき音と映像のみ
女性が「トビウオニギタイ」と呟く動画
SENSEプロジェクトという謎めいた露出方法


今までのMr.Childrenの活動からは想像できない、異例づくしの宣伝手法でした。
結果的にアルバムの内容については全くはっきりした事はわからず、発売後も特に説明や補填も無し。


数年後に雑誌で少し語られる程度で、リリース当初は何も本人たちから言及はありません。

でも擬態っていう曲ができた時に、あのアルバムのタイトルがなんとなく浮かんだんですけど。
何かひとつのことを明確に言っているものでもなく、ただイメージからイメージへとどんどん言葉を繋げていくっていう…
そうやってできたものを、取材して説明したくなかったっていうのはありますね。

MUSICA 2015年1月号 桜井和寿インタビューより

『宣伝をしない』という事が結果的に宣伝になっている、飛び道具の様なプロモーションであり、Mr.Childrenという世間に許容された存在だから実現できる手法でした。


しかし彼らの本質的な意志は、『SUPERMARKET FANTASY』の頃と変わっていません。

簡単に手に入るもの、タダで見れるものは、それだけの価値しかなくなっていくんじゃないかって僕は思うんです。
じゃあ、どういう方法がお客さんの興味を引き、手にしたいと思うかってなった場合、何かこの手の中に持っていたとして、それを『はい』って見せてあげることじゃなく、(手のひらを閉じながら)隠して『はい』ってやったら、その隠された中にある中身を見たくなるでしょ?

MUSICA 2015年1月号 桜井和寿インタビューより


聴き手が音楽に触れた瞬間、一番に心が踊る感情を持ってもらいたい。
言葉で説明せずとも、自分の感覚で音楽の全てを感じてほしい。

これが一番の目的でした。


今回の試みと似た意志として
・配信への抵抗
・CDを店頭で購入するというアナログな行動への高揚感
・後のアルバム『REFLECTION』における、既存の方法に囚われないライブ形式

この辺りに通ずる理念がSENSEプロジェクトには表れています。


無意識と感覚の中へ

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無意識から無意識へ、言葉や感覚を繋いでいくSENSE。

自分が単に見聞きして得た知識や情報を信じるのではなく、その先を感じ取る意思を持つ事の大切さを歌っています。

 

富を得た者はそうでない者より 満たされてるって思ってるの⁉
障害を持つ者はそうでない者より 不自由だって誰が決めんの⁉
目じゃないとこ 耳じゃないどこかを使って 見聞きをしなければ
見落としてしまう 何かに擬態したものばかり


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印象的なクジラのCDジャケットについている帯や、歌詞カードに描かれている深い青とピンク色のデザイン。

これはツアーなどでもアートワークとしてイメージで使われています。

全ての物事にはプラスとマイナス、表と裏が存在する。
相反する2つの物事の間に揺らいでいる物を見極め、求める感覚。

そんな力を持った時、人はまた一つ強い心を得る事ができる。


世界が揺らぎ何を信じれば良いか迷い求めるこの時代。皆が自らの生き方を見つけられない。

白と黒の間にあるグラデーションこそ美しく、価値のある物な筈。
自分以外の物から否応無しに色を迫られる私たちに、本当に大切な感覚と信じるべき物とは何かを提示してくれる彼ら。


このアルバムの歌詞には本当に多くの『⁉』や『?』が登場し、私たちに何度も問いかけてきます。

自分の力で考える事をしなければいけない、というメッセージがそこには存在し、聴き手のイメージは膨らんでいきます。


桜井さんは『HOME』の際に、無理に言葉を引っ張り出してくるのではなく無意識に出てくるイメージから、自分の無意識の考えを知ると話しています。

これまでで最も自分らしく純粋な彼の表現から生まれる『SENSE』は、長い旅をしてきた自我の開放の一つの到達点と言えるかもしれません。


私はこのアルバムの発売当時、東京で働いていました。

あれはアルバムが発売される少し前の事。

都内某所の交差点の宣伝ボード前で、ポスターの張替え作業をする風景が。

車での通りがかりでしたので一瞬目に入っただけでした。
一面の大海原の絵の端に小さく、でもはっきりと『Mr.Children 12.1』の文字が。


今でもすごくワクワクしたのを覚えています。

その頃は都内の各所を車で周る事が多かったのですが、ポスターはそこだけでした。(CD発売後には各所に掲示されていましたが)

当時所属していた事務所の烏龍舎が近くにあったので、そういった事も関係していたのかもしれません。


ファンは『深海の再現』『ダウナーで謎めいた作品』と様々な憶測の声をあげていました。


私もそこで作品に関する想像を膨らませていました。


少し経ってからCDが発売すると、あのポスターボードには大きなクジラが躍動する姿が。


インタビューや宣伝などでアルバムのテーマや意味、曲を説明される事では味わえない体験。

自分で考え、CDを買ってワクワクしながら聴く。
歌詞の意味や良さを自分なりに考える。
その感情をライブに持ちより、音楽を感じる。


そこにはいつもには無い体験や高揚感がありましたし、確実に音楽が『自分の物』になりました。

これこそが彼らの『狙い』

いえ、音楽を楽しんでほしいという『願い』だったんですよね。


深海からの脱出

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Mr.Childrenは『深海』と幾度も対峙してきました。
自らが虚構を深める象徴的な作品。これまで何度も脱出を試みます。



①regress or progress ’96-’97

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『Out of Deep Sea』深海からの脱出というテーマが掲げられていました。
深海のアルバム収録曲を丸々演奏するという試み。壮大な演出と過酷なツアー日程に、本人たちも参っていたという期間。

これは今だから言えますが、ショーを演出する為の誇大テーマであり、あくまで舞台装置としての機能しか果たしていません。

巨大な音楽産業と化した虚構からたった一度のツアーで脱却できる筈もなく、彼らは活動停止に入ります。



②Q

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桜井さんが潜水服を着たジャケットが印象的な一枚。
本人のインタビューで深海からの脱出の意を込めていたと発言しています。

前作『DISCOVERY』と『Q』は小林武史さんから一歩距離を置いたスタンスで制作されています。

コンセプチュアルなイメージに引っ張られるのではなく、あくまでバンドとして肉体的に互いの音を確かめるセッションから作られていきました。

『Split The Difference』→『SENSE』も自分たちが出す音から音へのイメージで自然に作られた物で、関係性が類似しています。

ですが悪い面を見ると、結果的に自分たちの音楽(エゴ)に純粋になり過ぎた。
その後バンドは意識を改め、POP再検証の決意を固めていきます。


③I LOVE U

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愛と衝動が表層的なテーマの本作。
このアルバムは異なる世界へ行きたい(内省的に)という願いと、日常を肯定し愛するという2つの考えに支えられています。

自我を表現する『Monster』という曲中には、自身をトビウオに表す主人公の姿が。

トビウオは扉(精神を隔てる壁)を叩き、中から外に出たいと必死で訴えます。結果的に自己を認め、海の中から出る事はなく『潜水』し続けます。

しかしその水は先が見えない暗い海ではありません。
『澄んだ水の中』を苦しくても泳ぐことで、生を感じる事の喜びを歌っています。

桜井さんは自我や無意識を表す際、水で表現する事が多いアーティストです。
メロディも水回りで思いつく事も多く、彼の中で水は重要な要素となっています。

後のメンバーのインタビューでも「QとI LOVE Uは似ている」という発言があります。

明らかにバンドセッションやグルーヴから生まれた肉体的な感覚作品はイメージで繋がっているのでしょう。
(SENSEアリーナツアーのセットリストにはHallelujahも候補に入っていました)


④SENSE

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再び現れるトビウオという虚像、CD発売前の抽象的なCMで映し出される水中と思しき画や音。
CDジャケットに描かれる海と、海上に現れるクジラ。

SENSE発売直後のCMでは流れる楽曲と共に、クジラが海中で泳ぎ水面へ勢いよく浮上する様子が描かれています。

海中が意図する物が『深海』であるとすれば、浮上後の世界は別の物。
つまり、マイナスからプラスへの力強いイメージや願いを描いているのです。

収録されている楽曲には、多くにそのイメージが表れています。

マイナスからプラスへの力を得るテーマといえば、Qに収録されているHallelujahも同じですね。

この世の中は多くの真実や嘘、情報に溢れかえっている。
周りに流され単に見聞きする事をしていては、大切な物を見失う。

自ら『それ』を五感以外で感じ取りその力を信じる事ができた時、人はもっと強くなれる。

表層的には謎めいた試みに見えましたが、力強さと生命力を持ったメッセージが込められている希望に満ちた作品なんです。

 

Mr.Childrenを超える

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そして彼らは自分たちの存在を再認識し、新たなステージへ進もうとしています。

このアルバムのもう一つのコンセプトは『Mr.ChildrenがMr.Childrenを超えること』


暗闇から光へと手を伸ばす様、聴き手へ与える希望の力。

今まで彼らが虚構として背負ってきた物。

それらを全て信じ、今までのMr.childrenを総括して前に進むエネルギーが表しているのがこのジャケットに描かれたクジラの絵。

そして『SENSE』なんです。

桜井さんはこの作品に対し、Mr.childrenをずっと聞き続けてくれた人達が作らせてくれたアルバムと発言しています。


彼らの成功や苦しみを分かち合い、まるで一人の人間の人生に寄り添う様な。
そんな温かく見守ってくれた愛する人たちに対する、決意表明の証。


もうPOP再検証はここで終わりです。


今まさに、全てを超えた新しいMr.childrenが生まれようとしています。


読んでいただきありがとうございました。
次回は第二部『SENSE 虚像が放つ光編』でお会いしましょう!

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これまでMr.Childrenの作品について触れ、全てのアルバムについてに感じた事や考察記事を執筆。 サイトの順番的に見辛い部分もあった為、一覧として触れられるようにまとめてみた。 キュレーションサイト「グノシー」や「スマートニ...

SENSEでMr.Childrenが伝えたかったメッセージの秘密。伝わりにくい作品内容を、考察と共にわかりやすく紹介。


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